第六回『たのしいな俳句』

第六回『たのしいな俳句』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 表現学部』の第六回講義です。

これまでの講義で「わたしの気持ちを俳句にするには?」どうしたら良いか、概ねやり方を把握できたかと思います。
この最終回では、方法論を離れていよいよ実践に踏み込みます。

……とは言え、「これまでの内容を読んで一句作りましょう」といきなり言われても、どう手を付けて良いものやら悩んでしまうと思います。
そこで、理論を簡単に実践できるツールを紹介します。

それが『たのしいな俳句』です。

考案者は俳人の夏井いつき先生。
「俳句の種蒔き」運動を提唱して、普及活動に尽力している俳壇の代表者のひとりです。

 

引用:©夏井&カンパニー

当サイトで『たのしいな俳句』を紹介する許諾を頂いております。
著書も多数ありますので、興味を持った人はぜひリンクを辿ってみてください。

https://www.natsui-company.com/

では、さっそく『たのしいな俳句』の使い方を紹介していきましょう。

第一ステップ

今回は「たのしい」という気持ちを俳句にしてみます。

まず、俳句の十七音を、上五・中七・下五に分解してください。
そして、下五の部分を「たのしいな」という感情表現に置き換えます。

図解すると――

 

となります。
ここまでが第一ステップです。

第二ステップ

つぎに、上五~中七までの十二音の部分で、楽しい情景や場面の一節を作ります。
名詞でとめても動詞をつなげても構いません。
内容も自由ですが、季語だけは含まないでください。

ためしに筆者の作った例句を当てはめてみましょう。

 

こんな形になります。

ここまでが第二ステップですが、この段階で読者のなかには「俳句に気持ちを表す言葉は書き入れないのでは?」と疑問に思う向きもあるかもしれません。

はい、その通りです。
俳句に心情の言葉は必要ありません。
そこで「たのしいな」の部分を変更する第三ステップへ移ります。

第三ステップ

第三ステップでは、「たのしいな」の部分を「五音の季語」に変えます。
心の動きをここで季語に託すわけです。

今回はたのしい気持ちを託す季語ですので、季節が春なら、

「春の空」
「春日和」
「風光る」
「初桜」

などが挙げられます。

歳時記を開けば、他にもたくさんの「五音の季語」があるはずですので、いくつかピックアップして、順番に当てはめてみましょう。

最終的に「これでいいのか?」と悩んだら、季語の本意を意識する場面!
選んだ季語の本意が表現したいこととマッチしているか、歳時記の解説と例句をよく見比べてください。

自分で一番しっくりくると思った季語に置き換えたら、一句の完成です。

さきほどの例句の場合だと、こんな感じになります。

 ・ 日帰りの観音崎は春の夕  豊島月舟斎

……あっという間に日が暮れてゆく、楽しい小旅行の映像が出来上がりました。

『たのしいな俳句』まとめ

基本的な使い方は以上ですが、下五を「さびしいな」「きれいだな」などべつの気持ちにして、それぞれ表現練習をしても良いでしょう。
心情を季語に託すプロセスが直感的に把握できます。

筆者の知る限り、これ以上シンプルな表現方法の練習ツールは他に存在しません。
作れる俳句には限界がありますが、はっきりとした段取りがあって、かつ定理に裏打ちされた『たのしいな俳句』は、初心者にうってつけと言っても過言ではないでしょう。

ぜひ、パターンを変えて何句か詠んでみることをお勧めします。

一階教室の全講義を終えて

さて、全六回にわたって解説した『俳句大学 表現学部』一階教室の講義は、これでひと区切りとなります。

いかがでしたか?
役に立ったと思う人は、コメントを返してもらえると励みになります。

また、『作り方学部』『文法学部』をまだ読んでいない人は、あわせて一読することをお勧めします。
さらに詳しい表現方法を知りたいと思ったら、『表現学部 二階教室』へ進んでください。