第八回『俳句は二種類あった!? 二物衝撃と一物仕立②』

第八回『俳句は二種類あった!? 二物衝撃と一物仕立②』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 作り方学部』の第八回講義です。

前回は、俳句の修辞技法のひとつ
「二物衝撃」
について説明しました。

今回はもうひとつの修辞技法
「一物仕立」
について解説します。

もうひとつの俳句 一物仕立!

二物衝撃と異なり、ひとつの季語をとことん観察して、その状態や動作などの新しい表現を試みる俳句があります。

それが「一物仕立」です。

季語に特化した修辞技法ですので、いわば季語の純粋培養物と言えます。

二物衝撃をブレンドコーヒーに喩えるならば、一物仕立はストレートコーヒーに当たるでしょうか。
ブルーマウンテン、モカ、キリマンジャロ……のように、単一の豆で淹れたコーヒーのようなものです。

つまり、一物仕立とは「単一の季語の旨味をひたすら追求するレシピ」に当たります。

 

一物仕立の特徴とは?

もう少し具体的にまとめましょう。

一物仕立ての特徴は、徹底した季語の観察にあります。

何かをとことん観察することによって、今まで誰も気づかなかったアイデンティティや、貴重なシャッターチャンスを見つけだします。

俳句を嗜まない人でも、たとえば旅行にでかけたとき、「これってこんな状態になるんだ」とか「こんな風にきれいな状態は見たことない」とか、ふと感じとる瞬間がありますよね?

それを切り抜いて俳句に表現するわけです。

そのため、結果的に描写への依存度が高くなる傾向があります。

取りあわせのアイディアを主体とする二物衝撃とは、だいぶアプローチが違いますね。

 

また、未発見のアイデンティティや貴重なシャッターチャンスなどは、滅多につかみ取れる機会がありません。
そのため、二物衝撃よりもはるかに絶対数が少ないという特徴もあります。

しかし、吟行(※ 俳句を作りに外出すること)で季語の実物を見ているうちに、予期せずひらめく場合などもあり、これはこれで必要なのも事実。
この機会に、一物仕立の作り方を知っておく価値はあります。

一物仕立はどうやって作るの?

一物仕立がどういったものかは、おおむね把握できたかと思います。
二物衝撃と比べると何だか難しそうに見えますが、初心者がいきなり手を出しても良いものでしょうか?

結論から言えば答えはYES。どんどんチャレンジすることをお勧めします。

じつは、俳句が完成するまでの工程自体は、二物衝撃よりシンプルな一面もあります。
なぜなら、季語と対になる事物がそもそも存在しないからです。

対になる事物を取りあわせるということは、そこに配合の距離感を生じるということ。
誰もが思いつくような距離の近さであれば、誰もが思いつく陳腐な俳句になります。
逆に天文学レベルで遠ければ、「この人何言ってんの?」とサイコパス認定されてしまいます。
つまり、二物衝撃の着想は「読み手が共感する言葉の距離」を保つことが非常に重要になります。

その点、一物仕立は着想でなく観察によってアプローチするため、きわめて定量的・客観的です。
自分の気づいたアイデンティティ、遭遇したストップ・モーションを、そのまま俳句に表現するだけ。
まるでフェルマーの最終定理のように、ブレのない世界が完結します。

 

また、季語と対になる異物が存在しないということは、距離感を考える必要がないということも意味します。
一心不乱に自分の選んだ季語へと集中できます。

工程自体はシンプル……と記したのは、こうした理由からです。

……とは言え、「それなら一物仕立のほうが二物衝撃より簡単に作れるよね!」という結論には、残念ながらなりません。
最初から苦手意識を持たないように、あえてシンプルな一面を取りあげましたが、一物仕立には一物仕立の努力が必要となるためです。

その努力とは――やはり季語の観察と描写です。

たったふたつのプロセス 観察と描写

観察して文字にするだけの作業にどうして努力が必要なのか、実際にやってみると体感しやすいかもしれません。

「山女」という三夏の季語を例にとって、試しに作句してみます。

 

ヤマメ(学名:Oncorhynchus masou、山女魚、山女)は、サケ目サケ科に属する魚であるサクラマスのうち、降海せずに、一生を河川で過ごす河川残留型(陸封型)の個体のこと。北海道から九州までの川の上流などの冷水域に生息する。

引用:Wikipedia

この題で、一物仕立の俳句を詠むとします。

まず、対象の状態や動作について、新しい何かに思い当たらなければなりません。

筆者をふくめ読者のほとんどは、おそらく山女と日常的に接する環境にはないでしょう。
そんな私たちが、一般的なWikipediaの説明だけで、目新しい事実に気づくことができるでしょうか?

……不可能とまでは言わないものの、非常に難しいかと思います。

未発見のアイデンティティ、あるいは貴重なシャッターチャンスを思い浮かべられるのは、おそらく渓流の釣り師さんか、水産業の関係者くらいに違いありません。

これで分かると思いますが、要するに一物仕立を詠むには、時間をかけて対象をつぶさに観察する以外、方法がないということです。

それがシンプルなところでもあり、同時に努力のしどころでもある、ということになります。

季語の観察なくして一物仕立なし――

一口でまとめるとこうなるでしょうか。

 

かく言う筆者も、自分の目で「その一瞬」を目撃するまで何も思いつきませんでした。

最後に例句を出しておきましょう。

 ・倒木の瀬枕超ゆる山女かな  豊島月舟斎

倒木を超えるほど高くジャンプする山女を実際に見ていなければ、出てこなかった一句です。

二物衝撃と一物仕立まとめ

前回の講義とあわせて、まとめをしておきます。

俳句には大きく分けて

 ・二物衝撃
 ・一物仕立

の二種類があります。
両者は特徴だけでなく、作成の工程もまったく違います。

二物衝撃とは、季語と対になるべつの事物を配合する修辞技法
一物仕立とは、季語をひたすら観察して描写する修辞技法

を意味します。

以上が二物衝撃と一物仕立のまとめになります。