第十回『超カンタン! パズル式作句法 ⑤』

第十回『超カンタン! パズル式作句法 ⑤』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 作り方学部』の第十回講義です。

前回は、第四のパターン
【下五「かな」切れ】の一物仕立
について説明しました。

今回も引き続き、一物仕立のお手軽な作成法を紹介します。

第五のパターン【下五「けり」切れ】の一物仕立

それでは例句を見ていきましょう。

 ・大蛍ゆらりゆらりと通りけり  小林一茶

小林一茶は十八世紀に生まれた俳諧師です。
すでに歴史上の人物ですが、現代人にも親しみやすい十七音を数多く残しています。
数百年前に詠んだ俳句なんて、なんだか浪漫がありますね。

話が脱線しましたが、例によってカナにひらき、さらに五・七・五へと分解して特徴を見てみましょう。

 

さらに、パターンを図にして抜きだします。

 

第四のパターン同様、これも構造そのものは非常にシンプルです。
ざっくりと概略をまとめましょう。

まず、句末に切れ字「けり」があります。
「けり」の他に「俳句の切れ」は見当たりません。
構造的には第四のパターン【下五「かな」切れ】とよく似ています。

つぎに、上五に置かれた季語「蛍」と、下五に置かれた活用語「通る」のあいだに、主語>述語の照応関係があります。
このため、

「蛍が > 通った」

と、まんま散文に書き下すことができます。
ここは第四のパターンと異なる部分です。

以上の特徴を念頭に、構文と修辞技法をそれぞれ検証します。

またもや構文は一句一章

第五のパターン最大の特徴は、句末に「けり」があることです。

文法学部 一階教室 第三回』で説明しているように、活用語の連用形にしか接続しない切れ字が「けり」です。
あまり汎用性はありませんが、かわりに中七末あるいは下五末どちらでも使える適応力があります。

「けり」の入った構文は、この「どちらでも使える」という特性がキーポイントで、

 ・中七末で使えば句中に切れを生じて二句一章に
 ・下五末で使えば句末切れの一句一章か、もしくは句中の切れと合わせた二句一章に

と、カエルのような両用性を発揮します。

それを踏まえて例句を見ると、「けり」は下五末に位置していますので、句中に体言止めや用言の終止形といった切れがあるかどうかで構文が変化することになります。

例句の上五には、季語「蛍」という体言が見えますよね。
となると、この「蛍」が体言切れになっているかどうかが分岐点になるわけですが、はたして独立した文節になっているでしょうか……?

一語独立ということは、主格助詞をつけても文意が繋がらない状態でないといけませんが、

「蛍が > 通った」

と散文に書き下せることは、すでに確認したとおりです。

つまり、下五の動詞「通る」と主語・述語の照応関係が成立しており、独立した文節にはなっていません。

この結果、句中に体言切れは存在しないという結論になります。

 句末が切れ字「けり」で切れていること――
 句中にべつの切れがないこと――

以上ふたつの条件を当てはめると、第五のパターンは一句一章であると言えるわけです。

またもや修辞技法も一物仕立

今回のテーマである修辞技法についてはどうでしょうか?

例句のキーワードはふたつしかありません。
すなわち季語「蛍」と動詞「通る」です。

繰りかえしになりますが、このふたつは主語>述語の照応関係になっていますので、主語である「蛍」の描写が例句に書かれたすべてです。

一物仕立の条件は、

「季語をとことん観察して、状態や動作の新しい表現を試みる」

ですので、完全に一物仕立となっています。

「けり」はかならず活用語をともなうので、その活用語と季語のあいだに主語・述語の照応関係が成立する場合は、すべて一物仕立と考えて間違いありません。

【下五「かな」切れ】のレシピ

前回同様、三分クッキングのお時間です♪
今度の隠し味はハチミツということにしましょう。

 

① 上五に季語を選択(五音または四音+主格助詞)
② 下五に上五の述語に当たる活用語を配置
③ 活用語を連用形として句末に切れ字「けり」を配置
④ 中七で状態や動作を描写

以上となります。

第五のパターンまとめ

検証した特徴から【下五「けり」切れ】の作り方をまとめると――

『切れ字「けり」を句末に使う一句一章の一物仕立』

と分類することができます。

組み立て方を順に追うと、

① 上五に季語を選択(五音または四音+格助詞)
② 下五に上五の述語に当たる活用語を配置
③ 活用語を連用形として句末に切れ字「けり」を配置
④ 中七で状態や動作を描写

という手順になります。

構造と手順を把握できたら、とにかく季語を当てはめて何度もパターンを試してみるようお勧めします。

なお、第五のパターンを練習するときはちょっとした注意が必要です。

切れ字「けり」を句末に使うため、「体言切れと合わせた二句一章」とならないように気を付けなければならないからです。

具体的に例句を挙げると、

 ・夕ざくらけふも昔に成にけり  小林一茶

といった構成です。

パッと見は第五のパターンとよく似ていますが、述語「成る」にかかる主語は「けふ(今日)」であって「夕ざくら」ではありません。
季語「夕ざくら」は中七以降とは文脈も文意も一致しないので、一語独立の文節です。
つまり、上五の体言切れに当たります。

したがって、構文は二句一章に分類され、修辞技法は「夕ざくら」と「けふも昔」を取りあわせた二物衝撃とみなされることになります。

これはこれでひとつのパターンではあるのですが、いまは一物仕立をテーマにしているので、趣旨に沿いません。
一物仕立を詠むときは、あくまで季語の描写に的をしぼるよう注意してください。