第八回 『俳句を盛りあげよう! 万能な比喩法』

第八回 『俳句を盛りあげよう! 万能な比喩法』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 表現学部』の第八回講義です。

前回は導入として
「俳句にすべきでない表現」
を解説しました。

ここからは逆に
「俳句でよく使う表現」
を紹介していきます。

実際の俳句によく使われる技術から何種類かピックアップして、一緒に見ていくことにしましょう。

最初は「比喩法」です。

女子高校生はもっとも古典的な表現者だった!? 

ブログを書いていると電話の声が聞こえてきました。

高校生になる娘が友だちと部活の話をしているようです。

 

マシンガンのように飛び交う若者言葉――
その中に、ある特定の表現が繰りかえし出てきます。

それが「〇〇みたいな~」です。

読者のなかにも耳にしたことのある人がいるかもしれません。
若い世代が好んで使う話し言葉です。

「~みたい」「~のよう」という表現は、ものの喩えをあらわす修辞技法ですよね。
これは比喩法のひとつ、直喩に当たります。

自己主張に直喩が多い――つまり現代のティーンエイジャーは比喩法を多用する傾向があると言えます。
直喩以外も合わせると、おそらく会話の大半に比喩法が含まれていると言って過言ではないでしょう。

じつは、こうした傾向は若者言葉にとどまりません。

さまざまなモノがあふれる現代社会は、喩える対象が増えるにつれて比喩法の登場する頻度も高まっています。
要するに言語全体の傾向です。

語学に堪能な文化人にしたところで、より洗練された言い回しを使いこなしているだけ。
比喩法がおもな表現方法のひとつであることに変わりはありません。

それほど馴染み深いわけです。

だからこそ、俳句にもしばしば用いられます。

俳句のような定型詩における比喩法の歴史は長く、古くは『万葉集』に記録が残っています。

 

引用:Wikipedia

『万葉集』と言えば、現存する最古の和歌集です。
そこに登場するということは、奈良時代の歌人から現代の女子高校生にいたるまで、ずっと表現方法のメインストリームを占めていることになります。

比喩法がいかに普遍的で汎用性の高い表現技術であるかがうかがえます。

とくに俳句は世界一短い定型詩なので、音数の少ない比喩法とことさら相性が良いと言えます。

そこでまず、俳句で使われる比喩法にはどんなものがあるのか、ざっくりと確認するところから始めてみましょう。

比喩法のいろいろ

ものの喩えに当たる表現を仕分けすると、とても多くのカテゴリーに分類されることとなります。
そこに含まれる範囲は膨大で、何をどこへ振り分けるか、専門家のあいだでも見解の一致をみていません。

したがって比喩法のすべてを扱うのは無理があります。
そこで、ここでは代表的な三種類――直喩、隠喩、換喩――に絞って話を進めます。

もし独創的な比喩法を知りたい場合は、専門書をひもといてください。

それではまず、直喩、隠喩、換喩の特徴をそれぞれ一言でまとめましょう。

 

……さっぱりわけがわかりませんね。

なるべく正しい言葉にしようとすると、こうなってしまいます。

じつは、比喩法の定義は言葉で読むより実例を確かめるほうがはるかに分かりやすいです。

ですので、いまはこのまま放置しておいて構いません。

それぞれの具体例を先に見たのち、もう一度ここへ戻ってみると良いでしょう。

キーワードの「直喩」

直喩とは、「〇〇みたいな」「〇〇のような」など、比喩法だと分かるキーワードを明示して、ふたつの異物を対比するテクニックです。

「雪みたいな肌」
「抜けるような青空」

こういった表現が該当します。

原則として異物を対比するので、両者のあいだに直接的な関連性はありません。
例文を見ると、「雪」と「肌」も、「抜ける」と「空」も、本質的に異物であるのが分かります。

また、俳句で使う場合には、口語体だけでなく文語体の比喩も含みます。
たとえば、

「火のごとき城攻め」
「偉丈夫、巌のごと」

のように、話し言葉で使わない表現や、語幹のみの応用など、多数の派生形があります。

実際の俳句で確かめてみましょう。

 ・ 蝸牛のかくれ顔なる葉うら哉 与謝蕪村

「かくれ顔なる」が「かくれるような」という直喩をあらわしていますね。

お察しの「隠喩」

とある事物や概念から、テーマとする側面をべつの言葉で置き換えるのが隠喩です。

「時は金なり」
「子供こそ人類の宝」

こういった表現が該当します。

直喩と異なり、比喩法を明示するキーワードや形式がありません。
あわせて、対比する二物の本質に直接的な関連性がみとめられます。
例文のひとつで言えば、「時」も「金」もひとしく貴重です。

こちらも例句を挙げてみましょう。

 ・ 鮎汲の終日岩に翼かな 与謝蕪村

鮎漁の投網を鳥の翼に見立てています。
どちらも「広がる」ところが連想性を生むわけですね。

言わずもがなの「換喩」

万人の共通理解にもとづいて、特定の事物で全体を想起させるのが換喩です。
「これと言えば当然これ」と言えば分かりやすいでしょうか。

広い意味で、提喩もここに含めることがあります。

「白バイに捕まった」
「お茶にしない?」

こういった表現が該当します。

例文に出てくる「白バイ」は、言葉どおりなら単に白色のバイクです。
しかし、これを聞いた人は誰でも「違反で警察に捕まった」と理解します。
白バイが警察力そのものを想起させるからです。

こうした使い方が換喩に当たります。

最後の例句を掲示しましょう。

 ・ 風呂入に谷へ下るや雪の笠

言葉通り「雪の笠」が動いているのではなく、「雪が降っているので笠をかぶった人物」を全体的に表現しています。

比喩法まとめ

比喩法は今も昔も頻繁に使うもっとも一般的な修辞技法で、直喩、隠喩、換喩など、多くの用法があります。

ここで取りあげた比喩法を振りかえると、

 直喩:比喩であることを明示して、関連性のない事物を対比する表現
 隠喩:対象のある本質を、おなじ本質を持つイメージで置き換える表現
 換喩:特定の具体的な事物によって、それを含む全体を想起させる表現

と定義することができます。

比喩法は和歌の時代から使われているため、その派生である俳句にもすぐれた詩精神を発揮します。

実際に多くの例句が残っていますので、表現の引き出しを増やすうえで用例を確かめる価値はあるでしょう。

以上が比喩法のまとめとなります。

次回は比喩法の仲間「擬人法」について解説します。