第九回 『擬人法には要注意! 俳句の表現テクニック』
- 2021.05.04
- 表現学部 二階教室
みなさんこんにちは。
『俳句大学 表現学部』の第九回講義です。
前回は、
「直喩、隠喩、換喩」
について、それぞれ解説しました。
今回は、
「擬人法」
を紹介します。
擬人法ってどんな表現?
擬人法とはどんな表現なのでしょうか?
知っている人は多いかもしれませんが、最初にざっくりとおさらいしておきましょう。
擬人法は活喩とも呼ばれる比喩法の一種です。
人間以外のものを人間に見立てる修辞技法のことを指します。
擬人法の「擬」という漢字には、なぞらえる、まねる、にせるという意味があります。
そのため「人になぞらえる」表現を指して擬人法と呼んでいるわけです。
たとえば、
「鳥が歌う」
という表現は、典型的な用例に当たります。
なぜかと言うと、本来「歌う」という動作は人間だけがおこなうので、実際に鳥が歌っているわけではないと論理的に分かるためです。
その結果、「人間が歌っているかのように鳥が鳴いている表現」と解釈されることになります。
おなじように、
「風がささやく」
「愛は地球を救う」
などはすべて擬人法に当たります。
原則として、
のシンプルな構文となります。
特徴は、主語・述語の照応関係をはっきりと記述することです。
それが比喩表現の符丁になるとともに、感情移入を誘うトリガーの役割を果たします。
擬人法は俳句と相性バッチリ♪
このように、擬人法を用いると短い音数で詩的にものごとを言いあらわすことができます。
そのため俳句にもしばしば登場します。
三春の季語のひとつに「山笑ふ」がありますが、これは季語自体が擬人法で表現されている一例です。
山は地形をあらわす名詞なので、もちろん実際に笑うわけではありませんよね。
なので「雪が解けてせせらぎとなり、草木が芽吹き、動物が目覚める……明るくにぎにぎしい山の様子」という本意に解釈します。
『表現学部 一階教室 第三回講義』でも解説したように、季語は有季定型俳句の支柱となるパワーワード。
その季語にあらかじめ適用されているのですから、擬人法がいかに俳句と相性が良いかは言うまでもありません。
直喩、隠喩、換喩とともに、俳句における表現手段のメインストリームと言えるでしょう。
ほかの比喩法と一緒に説明しないわけ
……ところで、今回のタイトルは『擬人法には要注意!』です。
ここまで解説した
「擬人法はシンプルで詩的」
「俳句に向いている表現」
というポジティブな論旨と、ぜんぜん一致しません。
いったいどういうことなのでしょうか?
ここからが今日の本番です。
本来、擬人法も比喩法のひとつには違いないので、分類上はひとくくりに説明すべき表現方法と言えます。
にもかかわらず、直喩、隠喩、換喩とべつに解説したのにはわけがあります。
その理由を一口で言うと、
「俳句に適用するときは気をつける必要があるから」
となります。
なぜ擬人法の適用にかぎり注意を要するのでしょうか?
理由はふたつあります。
ひとつ目は、あまりにも親和性が高すぎるため。
逆説的になりますが、俳句と擬人法の組みあわせは相性が良すぎるせいで、やろうと思えば表現の大半を擬人法に頼ることが可能です。
当然、そうして作られた擬人化俳句は数しれず、すでに季語を中心として多くの事物が擬人化し尽くされています。
しかも、俳句は音数の決まった定型詩であるがゆえに、安易に頼るとどれも似たり寄ったりな表現になりがち。
ゆえに、とても類似・類想に陥りやすいのです。
「擬人法は俳句を陳腐にする」
と言われる所以でしょう。
もうひとつの理由は、特性として述語を含むため。
述語の代表格は動詞ですので、動詞を欠かせないところに使い勝手の難しさがあります。
……具体的にどういうことでしょうか?
動詞には文字どおり「文意を動かす」効果があります。
十七音という音数の少なさゆえに、俳句の世界では主語や目的語を省略することもしばしば。
そこへ動詞を多用すると、主語・述語の照応関係にブレの起きるリスクが高まります。
作者の意図と異なる文意になりやすいということです。
また、読み手の誤解を避けようとして説明をつけ加えると、かえって散文化や音数不足を招来する羽目に……。
つまり、「擬人法のせいで泥沼にはまる」という本末転倒な結果をまねきかねないわけです。
「一句に用言はふたつまで」
と教わる所以でしょう。
そのため、擬人法を用いるときは主語・述語の符丁を読み手がきちんとトレースできるよう、慎重に取り扱う必要があります。
以上ふたつの理由から、擬人法の適用には注意を要するわけです。
注意点を理解したうえで挑戦を!
ここまで擬人法のネガティブな側面にスポットを当てましたが、そうは言っても独創的な表現は毎年生まれ続けていますし、用言を3つ4つ使った名句も数多く実在します。
・ 海に出て木枯帰るところなし 山口誓子
要するに、ハサミとおなじで「使いよう」ということです。
たしかに、俳句と擬人法を組みあわせるのは、陳腐化や構文の破綻といったリスクをともないます。
しかし、ここで解説したポイントに注意して使えば、絶大なメリットを得られるのも事実です。
「これは今まで誰も思いつかなかった比喩だろう」
と、確信を持って使えば、擬人法がすぐれた表現技法であることに疑いの余地はありません。
もし句作において「どうしても擬人法を使いたい!」と思ったときは、ここに挙げた注意点を振り返りつつ、ぜひ勇気を持って挑戦してもらえればと思います。
擬人法まとめ
まとめると――
擬人法は人間以外のものを人間に見立てる比喩法のひとつです。
基本形は、
<人間以外の主語+人間にしか使わない述語>
という短い構文で表現されます。
シンプルで詩情に富む俳句向きの修辞技法と言えますが、既出の用例が多すぎるために陳腐化しやすい傾向があります。
加えて、用言特有のデメリットを伴うため、文意が意図しない方向へブレてしまうリスクも生じます。
擬人法を俳句に使う際は、これらのリスクをあらかじめ踏まえたうえで、メリットを生かす工夫を心がけると良いでしょう。
以上となります。
次回は「オノマトペ」と呼ばれる擬態語、擬音語、擬声語をシリーズで解説します。
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