第十一回 『繰りかえしのフレーズ、俳句表現のシリーズ ――押韻、反復法、対句表現』

第十一回 『繰りかえしのフレーズ、俳句表現のシリーズ ――押韻、反復法、対句表現』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 表現学部』の第十一回講義です。

前回は、
「オノマトペ」
について解説しました。

今回は、
「押韻」「反復法」「対句表現」
をまとめて紹介します。

繰りかえしが俳句に詩情を生む!

俳句でよく使う表現は比喩法ばかりではありません。
一定のフレーズやパターンに類する方法もあります。

その代表格が「繰りかえし」です。

おなじ音や文節を繰りかえすと、その部分がまるでハイライトされているかのように読み手の印象に残ります。
その結果、修辞的な効果や詩情のふくらみが生まれ、韻文として芸術性が高まるのです。

いわば付加価値を生みだす蛍光マーカーですね。

 

こうした手法の歴史は古く、たくさんの種類と、多様な特性があります。

しかし、ひとつのカテゴリーにまとまっているわけではないため、あまり横割りで解説される機会はありません。

そこで、今回は「繰りかえし」をテーマに、

 ・押韻
 ・反復法
 ・対句表現

の3つの表現方法をピックアップします。

それぞれ独立した項目なので、一律の規則性はありません。

まずは特徴を見比べて、好きなものから実作で試すきっかけにしてもらえればと思います。

韻を踏んで歩こう! 押韻の歩き方

押韻とはどういうものでしょうか?

俳句において使われた場合の効果から確認しましょう。

句中に押韻があると、吟詠になめらかな音調が加わり、歌曲のような音楽感が醸しだされます。
俳句はもともとスピーキングの文芸なので、とても相性の良いテクニックと言えます。

周りに人がいないときを見計らって、ためしに下の例句を声に出して読んでみてください。

 ・ ゆさゆさと大枝ゆるゝ桜かな  村上鬼城

……いかがですか?
作者の描こうとする桜のおおらかさを音調で感じられたのではないでしょうか?

文字を読むとべつに特別なことは書かれてませんが、声に出すと「ゆ」の音楽性が耳に残ります。
発声してみて初めて分かる――これが押韻の効果です。

このように、句柄に合った押韻は韻文としての芸術性を高める効果を発揮します。

音だけで効果があるなんて、とてもお買い得な表現方法ですよね!

ぜひ作句に取り入れたいところです。

では、具体的にどうやって使えば良いのでしょうか?
つぎは定義を確認してみましょう。

押韻とは、「同一の母音をもつ音素でできた言葉を連続して用いる表現技術」を言います。

定義にするとなんだか難しそうですが、実際はたいして複雑なテクニックでもありません。

誰でも知っている例を挙げると、「生麦 生米 生卵」があります。

「生」を 連続して用いているので、これも立派な押韻に当たるわけです。

こうした「連続的な表現」は耳に残りやすいので、しばしば音楽の歌詞に応用されます。
コンビニで流れている「セブンイレブンいい気分♪」も立派な押韻。
誰しも似たようなフレーズを一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?

要するに押韻とは、ふだん私たちが一般的に使っている文法のひとつにすぎません。

俳句だから――と難しく考える必要はまったくないわけです。

「語呂が良いことはそれだけで価値がある」と割り切ってしまって何ら問題ないでしょう。

ちなみに押韻のなかには、完全に一致する子音を用いる例もあれば、母音だけで韻を踏む例(※ 類韻)もあります。
ヒップホップのライミングに近い応用版と言えるでしょうか。

 

つまり音感がはっきりと伝わるかぎり、押韻の応用範囲はかなり広いと言えます。
意図さえ明確になっていれば、拗音や促音も押韻に含めてかまいません。

――その意味では、言い方は悪いですが、だいぶガバガバです。

そのうえ、韻を踏む言葉の種類、音数、繰り返し回数にもいっさい制約はなく、どこで韻を踏むかの位置についてさえ自由です。
言い換えると、好きな言葉を、何回でも、選りすぐりの位置で使って良いのが押韻の定義ということになります。

一応、韻を踏む位置については詳しい文類があり、

 言葉の最初の音が同一のものを頭韻
 言葉の最後の音が同一のものを脚韻

と呼んでいますが、あまり意識して区分する必要はありません。

あくまでも音調にかかわる表現方法のため、文法的な定義は後付けで覚える程度で十分です。

最初は「 同一の母音をもつ音素でできた言葉を連続して用いる 」という原則だけ意識しておいて、むしろ自分の俳句にどうやって取り入れるかを模索するほうに力を入れるようオススメします。

以上がざっくりとした押韻の定義となります。

最後に、押韻を実際に使うにあたって、注意すべき点についてまとめておきましょう。

定義から分かるとおり、押韻の応用範囲はとてつもない広さにおよびます。

そのぶん、どの言葉の、どの音を、どの位置で、どれくらい連続するか――といった使い方に気を回す必要があります。

音の響き方しだいで、読み手に伝わるイメージが変化するためです。

冒頭の例句で言えば、「ゆ」というユルさやゆとりを感じさせる単音で韻を踏んだ効果により、桜の大枝のおおらかさと共鳴を生じています。

仮にこれが「き」のように短く鋭角的な音だったら、本句のイメージとはまったく合致せず、逆に詩情を損なう結果になってしまいます。

つまり、押韻を定型詩に用いる場合には、全体の描写や主張にふさわしい言葉や音感を用いることが重要になるわけです。

 

このように、押韻は非常に広い応用範囲を持つ反面、その自由度の高さゆえに、使い方を厳選すべき表現技術であると言うことができます。

ある意味では、使い方のはっきりしている比喩法などの文法より、もっと高度な表現技術と言うこともできるでしょう。

当然、難しいことを言う人もたくさんいます。

しかし重要なのは、俳句にかぎらず多くの文章に触れて、自分の作句に活かす(モノマネする)練習をすることです。

そうすることで、自然と成功の経験則が自分のなかに確立されます。

押韻は付加価値のひとつであって、絶対条件ではありません。
最初から「何がなんでも押韻に!」と自分を追いつめるよりは、「こうやって韻を踏むと良さげかも?」と気楽に構えて、積極的に挑戦すると良いのではないでしょうか。

「大事なことなので二度言いました!」 強いぞ反復法

反復法もしばしば俳句に登場するレトリックです。

反復法の目的はたったひとつ――「強調」です。
おなじ言葉を畳みかけることで、文章にアクセントを付けます。

同時に、副次的な効果としてリズムを整えやすくもなります。

原則として二回繰りかえせば二倍、三回繰りかえせば三倍の音数が必要になるため、十七音しかない俳句では使いどころを選ぶ表現方法と言えるでしょう。
計画性をもって取り入れないと、韻律の崩壊(字余り)を招きやすいです。

そのため一番用例が多いのは中七になります。
上五から句またがりで先頭にインパクトを持ってくる例や、より強く自己主張するため破調にする例もあります。

いずれの場合でも、俳句の韻律と反復法のリズムをうまく融合することによって、抑揚のハッキリした詩を作ることができます。

例句を挙げてみましょう。

 ・ 分け入っても分け入っても青い山  種田山頭火

自由律の無季俳句ですね。
自由律や無季についてここでは解説しませんが、反復法の効果は見やすいかと思います。
青々と茂ったとてつもなく深い山が目に浮かぶようです。

このように、作者が何を強調したいのか明瞭に示すのが反復法と言えます。

一方、具体的な定義や用法は押韻にくらべるとかなりシンプルです。
使いこなすのは難しくありませんので、簡単にまとめるに留めます。

基本的な定義は、「おなじフレーズの繰りかえし」です。

繰りかえす対象に制約はないので、体言でも用言でも種類を問わずフレーズにふくめることができます。
また回数にも制約はないので、音数の許すかぎり何度反復しても構いません。

 

使い方はおもに以下の3通りです。

 ・畳句法
   間に何も挟まずにおなじ言葉を反復すること
   「痛いの痛いの飛んでけ~」など

 ・首句反復
   文節の先頭の語を反復すること
   「露と落ち露と消えにし~」など

 ・結句反復
   文節の末尾の語を反復すること 
   「運動の秋、読書の秋、食欲の秋」など

ほかにも前辞反復、隔語句反復、同語反復などいろんな用法があります。
この機会に知りたい人はぜひ専門書をひもといてみてください。

俳句で方程式? 対句表現とは

最後は対句表現です。

「対句」を書きくだすと、「語句を対にする」という意味に読めますよね。
実際そのとおりで、方程式のように対応関係を構成する文章を対句表現と呼びます。

だいぶ大掛かりな仕掛けになりますので、押韻より反復法、反復法より対句表現と、必要な音数は増える傾向があります。

 

一見、反復法に似ているようにも思えますが、具体的にはどう違うのでしょうか?

効果から順に見ていきましょう。

対句表現の効果も「強調」です。
語句を対にすることで、文章にアクセントを付ける表現方法と言えます。

反復法とおなじようにリズムを整えやすく、俳句においては五音―五音、五音―七音など、韻律に同期する例が多々あります。

さっそく例句を挙げましょう。

 ・ うらを見せおもてを見せて散るもみじ  良寛、貞心尼

「うら」「おもて」が対句表現になっています。
分かりやすいですよね。

例句のように一対の語句の組みあわせなら「対句」、二対の語句の組みあわせなら「連対句」と呼びます。
対が増えるごとに「四句連対句」、「六句連対句」……となりますが、俳句で連対句以上を使うことはほぼありません。

ですので、対句だけあればまず十分と言えるでしょう。

つづいて具体的な定義、用法です。

例句から分かるように、おなじ品詞の語句をおなじ組み立てで並べる構文が対句表現です。
ただし、性質の異なる言葉を対にする点で、反復法とは異なります。

たとえば

「青い海、白い雲」

のように、異質な事物をおなじリズムで対比した表現は、反復法ではなく対句表現に当たります。
そのため、場合によっては

「内海は大きく、戦艦は小さく見えた」

みたいに、真逆の性質が対になることもあり得ます。

対句表現と反復法のちがいは掴めたでしょうか?

押韻、反復法、対句表現まとめ

今回はこれまでで最大の紙面を割いて、押韻、反復法、対句表現を一挙に紹介しました。

それぞれカテゴリーの異なる修辞技法ですが、いずれも「繰りかえし」に関係します。
俳句では使う場面の多い表現と言えるでしょう。

ざっくりまとめると、

 押韻とは同一の母音をもつ音素でできた言葉を連続して用いる表現方法
 反復法とはおなじ文節を繰りかえす表現方法
 対句表現とはおなじ品詞の語句をおなじ組み立てで並べる表現方法

となります。

まとめて覚えておいて、使いやすいものから実作してみることをオススメします。
うまくピースがはまれば、大きな付加価値をもたらしてくれるでしょう。

つぎは二階教室の最終回です。

定型詩特有の表現技術「字余り 字足らず」について解説します。