第十回 『耳で俳句を楽しむ秘訣! オノマトペとは?』
- 2021.05.08
- 表現学部 二階教室
みなさんこんにちは。
『俳句大学 表現学部』の第十回講義です。
前回は、
「擬人法」
について解説しました。
今回は、
「オノマトペ」
を紹介します。
3つのモノマネ! オノマトペ
オノマトペという言葉を聞いたことがあるでしょうか?
筆者の先生によると元は古代ギリシャ語だったらしいですが、何語かにかかわらず独特の響きを持った言葉ですよね。
語呂が良いので、意味がよく分からなくても耳に残ります。
オノマトペを日本語に翻訳しようとすると、完全に一致する単語がありません。
「象徴詞」に分類したり、単に「擬声語」と定義したりと、さまざまに解釈されています。
ただ、説明をするのにまとまりがないと不便ですので、ここでは
・擬態語
・擬音語
・擬声語
の3つを含むカテゴリーの総称として話を進めます。
あくまでも仮説ですので、正確な定義ではなく俳句に応用するための方便と考えてください。
それではまず、どんな表現技法なのか具体例を挙げてイメージをつかみましょう。
犬の鳴き声と言えば……?
いきなりですがクイズです。
犬の鳴き声と言えば、どんな表記をするでしょうか?
――たいていの人は「わんわん」と答えますよね。
この「わんわん」がオノマトペです。
3つのカテゴリーのうち擬声語に当たります。
ものすごくシンプルですが、あえて概念をまとめると、
「感覚器でとらえた情報をそのまま言葉にした表現方法」
と言えるでしょうか。
ある意味モノマネに近いかもしれません。
オノマトペに正解なし
オノマトペは感覚情報を言語化しているので、使用者によって、あるいは対象の状態によって、さまざまな答えになり得ます。
たとえば犬の鳴き声で言うと、英語圏の人なら “bow wow” 、スペイン語圏の人なら “guau guau” と答えるでしょう。
世界中を見わたせば、もっといろいろな表現があるに違いありません。
人によって無数のバリエーションに変化します。
さらに、犬が騒いでいれば「ぎゃんぎゃん」、しょげていれば「くうくう」と表現する人もいるのではないでしょうか。
こちらは対象の状態に応じて変化するパターンです。
おなじ対象物でも、そのときその場の条件しだいで、表現の仕方も変わってきます。
これらの特性をまとめると、
「オノマトペには決まった答えがない」
ということになります。
逆に言えば、どんなオノマトペを考えついたとしても、それが万人を納得させる独創性を持っていれば、「それはアリ!」と認められる世界だということです。
たとえば、ある作家が「うなずく」という動作に「スカスカ」というオノマトペを付けたとします。
「太郎はスカスカうなずいた」
この比喩表現に、太郎がうなずかざるをえない状況を感じ取れたなら、それはアリ! ということになるわけです。
このように、既存の単語へ独創的な感覚情報を組み合わせるのが、オノマトペのテクニックであると言うことができます。
擬態語ってなに? メリットとデメリット
ここからは、
・擬態語
・擬音語
・擬声語
のそれぞれについて、各個に解説を進めましょう。
まずは擬態語です。
擬人法が「人間になぞらえる」表現方法だったように、擬態語も「状態になぞらえる」表現方法を指します。
具体例としては、
「わなわなと怒る」
「もっさりした髪型」
などが擬態語に当たります。
例文の「わなわなと」は「抑えきれない」状態をあらわし、「もっさりした」は「まとまりのない」様子だと考えられます。
このように、体感情報をまんま言語にした表現が擬態語です。
擬態語を俳句に取り入れる場合には、たいていメリットとデメリットを天秤にかけることになります。
メリットは、
・対象物との組み合わせの意外性
・みんなで共有できる新しい体感表現の創作
などが挙げられます。
具体的には、「ここでその擬態語を使うのか!」とか、「『ぷにぷに』なんて近代までなかったけど、どんな表現かは分かる」とか……、そういうたぐいのものです。
ただし、デメリットもあります。
それは――
・表現対象とセットでなければ何を言っているのか分からない
・そのため全体の音数が長くなりやすい
・独創的でも万人が共感できる組み合わせが必須
などです。
体感情報を言語化する以上、俳句の短い韻律をさらに圧迫することは必至ですので、メリットとデメリットを慎重に天秤にかけて、その都度判断を下さなくてはならないでしょう。
実例で確認してみます。
・ 潮騒にたんぽゝの黄のりんりんと 阿波野青畝
「りんりんと」という擬態語が「たんぽぽの黄」に組み合わされています。
この独創性のために五音ものスペースを割いて、しかし同時に韻律を保ってもいますよね。
工夫の仕方の一例として、参考になるのではないでしょうか。
擬音語ってなに? 俳句のメインディッシュ
つづいては擬音語です。
「風がびゅーびゅーと吹く」
「草をむしゃむしゃ食べる牛」
などが擬音語に当たります。
例文の「びゅーびゅー」は「勢いよく」という意味をあらわし、「むしゃむしゃ」は「夢中で」に相当すると考えられます。
対象物とセットで用いる点は、擬態法と変わりません。
このように聴覚情報をまんま言語化したものが擬音語です。
細かいことを言えば、動物の鳴き声など一部の表現は、擬音語にも擬声語にも解釈され得ます。
しかし原則論を持ちだすと話が進まないので、ここでは
<擬音語 = 生物の声ではない音>
と対象を絞って解説していきます。
擬音語は擬態語以上にシンプルな場合が多いので、修辞的に使われるよりも、むしろそれ自体が主訴になる傾向が強いと言えます。
「まさにこの擬音語が言いたかった!」という使い方です。
俳句に用いる場合においても、擬音語が入るとそれ自体が一句の方向性を決定することが少なくありません。
実例で確認してみましょう。
・ 大き尻ざぶんと鴨の降りにけり 阿波野青畝
「ざぶんと」が擬音語になってますね。
カモのお尻の大きさを水音で言いあらわしています。
この擬音語があるおかげで、作者のコケティッシュな感慨をわたしたちも共有できる仕掛けになっています。
もしこれがなければ、単なるカモの描写になってしまうことでしょう。
このように、擬音語を俳句に用いるときは、それ自体を一句のメインディッシュに据えるのが定石です。
擬声語ってなに? 使いどころが思案のしどころ
擬音語とおなじく聴覚情報を言葉にした表現方法で、声にあたるものを指します。
なお、ここでは
<擬声語 = 人間以外もふくめた生物の発声音>
と仮定します。
具体例を挙げると、
「羊がめぇめぇと鳴く」
「ゲラゲラと笑う人」
などが擬声語に当たります。
擬声語も広い意味では擬音語のひとつですが、俳句における使用頻度はだいぶ低くなります。
カテゴリーを分けたのはそのためです。
理由はいくつか考えられますが、一番の理由は描写の仕方しだいで擬声語を用いなくても状況を伝えられるからでしょう。
用例が皆無というわけではありませんが、ただでさえ短い俳句にわざわざ適用する例は珍しいです。
逆に、使うからにはひと捻り加えたパターンが多くなります。
例句としては、
・ 年の瀬の灯ぺちゃくちゃの六区かな 阿波野青畝
などがあります。
ふつうは対象物とセットで使うオノマトペを、対象が人以外にありえない状況に適用することで、あえて省略したパターンです。
こうした例句からも、擬声語は使いどころを選んで適用するのがオススメと言えるでしょう。
オノマトペまとめ
今回のまとめです。
オノマトペは俳句によく用いられる表現技術のひとつで、感覚器でとらえた情報をそのまま言葉に置き換えるテクニックです。
人によっても状況によっても用例が変化するので、一定の決まった答えはありません。
また、単体では何を言っているか分からない場合があるため、ふつうは対象物とセットで使います。
さまざまなカテゴライズが提唱されていますが、ここでは
・擬態語 …… 状態になぞらえるオノマトペ
・擬音語 …… 物音になぞらえるオノマトペ
・擬声語 …… 発声になぞらえるオノマトペ
の3つに分けて説明しました。
俳句に適用する場合、それぞれの特性に合わせて、その都度可否を判断すると良いでしょう。
以上となります。
次回は、ここまでに説明しきれなかった俳句の修辞技法を箇条書きにして、各個に解説しようと思います。
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