第三回『必殺の剣技! 切れ字』

第三回『必殺の剣技! 切れ字』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 文法学部』の第三回講義です。

前回は、
「俳句の切れ」
について説明しました。

「切れ」がどういうものかは見てもらえたと思いますので、今回は「切れ」を直接書き表す「切れ字」について解説したいと思います。

切れ字で一刀両断!

「切れ字」とは、どんな働きをする文字のことでしょうか?

一口で言えば、
「文章を切断するための符号」
ということになります。

これを用いた場所で強制的に文節を区切ることができますので、俳句を切る! という意思をもって「切れ字」を使えば、どんなところでもスパッと一撃で切れます。

剣豪の必殺技を思い浮かべると良いでしょうか。
小野派一刀流『金翅鳥王剣』とか、柳生新陰流『斬釘截鉄』とか……、中二病くさい何かだと思ってもらえればイメージしやすいかと思います。(剣道家のみなさんゴメンナサイ)

 

必殺切り……すなわち「切れ字」は、ぜんぶで18種類もあります。
列挙すると――

「かな」「もがな」「し」「じ」「や」「らん」「か」「けり」「よ」「ぞ」「つ」「せ」「ず」「れ」「ぬ」「へ」「け」「いかに」

となります。

「……こんなの覚えきれないし」
と思うのも当然。

ぜんぶ覚える必要はありません。
ゲームでも漫画でも、必殺技をすべて使いこなす主人公は(ほとんど)いませんよね。

では、最初はどれを覚えておくと良いのでしょうか?

最初に覚える3つの切り技

結論から言うと、

「や」
「かな」
「けり」

この三つだけで大丈夫です。

18種類もあるのにどうして3種類だけで大丈夫かというと、要するに「技が出しやすいから」だと思っておいてください。
練達の俳人でもこれがあればほとんど事足ります。

それぞれの特徴について詳しく見てみましょう。

第一の切れ字「や」

句末以外の場所に置かれ、強調・詠嘆を表す――ひらたく言えばビックリマークで切る役割を持った切れ字です。
「ビックリ切り」と覚えましょう。
図にすると、

 

というのが代表的な使い方になります。

「や」を接続できる品詞はとても多く、名詞、形容詞、動詞とだいたい何にでもくっつきます。
例句で使い方を見てください。

 ・ 五月雨や古書のくづし字読み流す 豊島月舟斎

季語「五月雨」という名詞に付属していますね。
この場合「さみだれだぁ!」くらいな意味をもって、ここで文節が区切れます。

また、「や」は非常に強い切れ字なので、五・七・五の韻律の途中でも「切れ」に使われることがあります。

 ・ 畜魂の碑やサイロ詰め粛粛と 豊島月舟斎

上句の場合、中七の二音目に「切れ」があるのが分かるでしょうか?
こんな強引な切り方もできます。
こういう使い方を「句またがり」と言います。

第二の切れ字「かな」

ほぼ100%句末で用いられ、一句全体にやんわりとした余韻を響かせる効果があります。
イメージ的には句末→句頭にもどって反芻する感じでしょうか。
ぐるぐる回るので「回し切り」と覚えましょう。
「かな」を使ったときは、かならず一句一章の句末切れとなります。

 

例句を挙げると、

 ・ 君去りし驛を筍流しかな  豊島月舟斎

となります。
「雨もよいの南風が吹いてるなぁ……」と感傷にひたり、頭ぐるぐる状態の余韻をもって切れています。

こちらもたいていの品詞にくっつけることができます。

第三の切れ字「けり」

ほぼ句末、まれに中七の末で使われ、過去を決然と振り返る意味をもった切れ字です。
「スパッと切り」と覚えましょう。

 

よく「かな」と「けり」の使い分けが難しいとの声を聞きますが、

 ・過去の事実の振り返りである
 ・「かな」のように反芻せず、断定に使われる
 ・句中に「俳句の切れ」を作っても作らなくても使える

といった点が「けり」の特徴です。
加えて、動詞や形容詞、形容動詞など、活用語の連用形にしか接続しません。

こちらも一応例句を出しておきます。

 ・ 一幅に展べて元旦来たりけり 豊島月舟斎

今度は用言に付属して、過去の事実を述べるのに使っていることが分かるかと思います。
「いやー元旦来ちまったぜ」みたいなイメージを思い浮かべると近いでしょう。

ダブル切れ字は危険!

ひとつ注意してほしいのは、「や」も「かな」も「けり」も基本的に一句にひとつだけということ。

俳句はとても短いので、詠嘆したいことをひとつに絞らないと、焦点がブレてしまいます。
例外はありますが、剣の達人ならともかく、普通の人がダブルで切り技を使うと、かえって威力が落ちると覚えてください。

切れ字まとめ

まとめると、

俳句には「俳句の切れ」を生みだす符号として切れ字があります。
代表的なものは、

「や」
「かな」
「けり」

のみっつです。
それぞれ異なる詠嘆に使われ、一定の場所で文節の区切りとなります。

以上が「切れ字」です。

これで「ことばの音数」と「俳句の切れ」シリーズは終了となります。

『作り方学部』を読んでいる途中でリンクした人は、ここで元へ戻って大丈夫です。

次回からは新シリーズに移ります。