第七回『俳句は二種類あった!? 二物衝撃と一物仕立①』

第七回『俳句は二種類あった!? 二物衝撃と一物仕立①』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 作り方学部』の第七回講義です。

ここからは二階教室となります。

一階教室が入門編だったのに対し、二階教室は句作の経験がある初級者向けの位置づけに変わります。
まだひとつも俳句を詠んだことがない場合、一階教室で手軽に詠める方法を紹介していますので、ぜひ一読してから階段をのぼることをお勧めします。

 

二物衝撃とは?

一階教室では全三回にわたり「パズル式作句法」を紹介しました。

過去の名句に共通する法則性を抽出 → パターン化するメソッドです。

誰でも手軽に俳句を詠めるように、言わばモノマネのやり方を紹介したわけですが、当然、そこには誰がやっても上手くいきやすいよう、仕掛けが施されてます。

そこで今回は、この手法の構造を解析し、どういう仕組みで上手に俳句を作れるのか、ネタばらしをするところから始めていきましょう。

 

ここでちょっと思い出してください。

「パズル式作句法」が一句の途中に「俳句の切れ」を設定して、「季語と事物を対比」するパターンだったのを覚えているでしょうか?

つまり、どんな作り方だったかと言うと――

「俳句の切れ」
「事物の対比」

これらふたつの要素を組み合わせていたわけです。

この組み合わせによるパターンが、一階教室の「パズル式作句法」でした。

さて、これらの要素のうち、「俳句の切れ」のほうは、ここまでの講義でもう目にしたかと思います。
文章の途中でカットを切り替えるテクニックを「二句一章」と呼びました。

これは、分類で言えば構文上の分類に当たります。

要するに、成功の法則その①は、「二句一章」の構文そのものであったわけです。

詳しくは『文法学部 一階教室 第二回講義』で解説していますので、ここでは繰り返しません。
必要に応じて参照してください。

問題は、もう一方の要素のほうです。
「事物の対比」とはいったい何でしょうか?

こちらについては完全に初見です。

……あれこれ説明する前に、どう捉えれば分かりやすいか、まず分類をハッキリさせてみましょう。

「事物の対比」とは、修辞技法の分類に当たります。

修辞技法と言うと、ふつうは倒置法とか比喩法とか、文章の体裁を改善するための表現技術を指しますよね?
俳句における「事物の対比」なんて一般的な辞書には書いてありませんが、ロジックに分類できる要素なのでしょうか?

ここが今回の本題です。

答えは「できる」。

それが「二物衝撃」という分類になります。

 

俳句独特の専門用語なので、聞きなれない言葉かもしれません。
しかし、俳句にはこの「二物衝撃」と、もうひとつ「一物仕立」という分類があり、すべての俳句がどちらか一方に区分されているのです。

例外は、ほぼありません。

そのため、修辞技法ではあるものの、『表現学部』でなく『作り方学部』のほうに説明を載せています。
言い換えれば、それほど絶対的な分類なわけです。

「二物衝撃」と「一物仕立」――センスに頼らずロジックに俳句をたしなむ人なら、知っておいて損はありません。
それぞれに異なる特徴がありますので、今回は二物衝撃のほうから詳しく説明することにしましょう。

二物衝撃はブレンドコーヒー!?

二物衝撃を一口で言うと、季語と、季語以外のべつの事物を、一句の内でバランスよく共存させる仕掛けのことです。

対になったふたつの事物を並べると、人間は自然と連想力を働かせます。
異質なふたつの取りあわせから、何か意味を見出そうとするわけです。
その反応を使って配合の味わいを楽しむのが、二物衝撃と呼ばれる修辞技法です。

ひとつの喩えとして、ブレンドコーヒーを思い浮かべてみてください。
配合する豆の種類や、焙煎の具合によって、出来上がる味わいは大きく変わりますよね。

 

俳句もおなじで、配合する事物の選択や使い方によって、すばらしい味わいを醸しだす可能性があります。
一見すると関係ないふたつのものが、取りあわせてみると面白い――まるで漫才みたいな発想ですが、アイディア次第でいくらでも新しい配合を作りだせます。
そのため、初心者ベテラン問わず、いままで誰も思いつかなかった俳句を瞬時にひらめく可能性があるわけです。

これが二物衝撃の特徴です。
具体的な統計はありませんが、世のなかの俳句のおよそ90%以上が二物衝撃タイプであると言われています。

二物衝撃のブレンド術

例句を挙げて、実物を見てみましょう。

 ・水兵に帽振る別れ秋つばめ  豊島月舟斎

オンラインゲームで知り合った海上自衛官がソマリア沖に派遣されたとき、別離の情を詠んだ一句です。

ここで「俳句の切れ」に当たる体言止めは「別れ」と「秋つばめ」のふたつ。
両者には、なんら関連性はありません。
しかし、仲のよいゲー友との別れと、渡り鳥である秋燕とを取りあわせることによって、ブレンドの効果が味わいを添えてくれます。

 

このように、異物どうしの対比効果を最大限に利用する修辞技法が二物衝撃であると言えます。

二物衝撃まとめ

俳句には、構文の分類とはべつに、修辞技法の分類があります。
区分は二種類。
そのうちのひとつが二物衝撃です。

二物衝撃とは、季語と対になるべつの事物を配合する仕掛けのこと。
対比する事物の選択、見せ方などのアイディアしだいで、オリジナリティのある一句を詠むことができます。

以上が二物衝撃の説明になります。

次回はもうひとつの仕掛け「一物仕立」について解説します。