第十一回『超カンタン! パズル式作句法 ⑥』
- 2021.04.22
- 作り方学部 二階教室
みなさんこんにちは。
『俳句大学 作り方学部』の第十一回講義です。
前回は、第五のパターン
【下五「けり」切れ】の一物仕立
について説明しました。
今回はこれまでの説明を応用した第六のパターン
【下五体言止め or 用言終止形】の一物仕立
を紹介します。
一物仕立をカンタンに出力する「パズル式作成法」も今回で最後。
この正念場を乗り越えて、パターンからの卒業を目指しましょう。
第六のパターン【下五体言止め or 用言終止形】の一物仕立
それでは例句を見ていきましょう。
・落ちて来て露になるげな天の川 夏目漱石
夏目漱石を例句にした解説は少なく、眉をひそめる向きがあるかもしれません。
小説のほうが有名だからです。
しかし、ずば抜けた文才の陰に隠れているだけで、漱石は間違いなく明治屈指の俳人のひとりです。
安心して知恵を借りてください。
さっそくカナにひらき、さらに五・七・五へと分解して特徴を見ていきましょう。
さらに、パターンを図にして抜きだします。
第四、第五のパターンとおなじように、一物仕立の特徴として構造そのものは至ってシンプルです。
ここまでくると概略を俯瞰するまでもないくらい自由度が高いので、要点だけかいつまんで解説します。
第六のパターンは、切れ字「かな」「けり」を使った一物仕立の応用となります。
切れ字に代えて体言あるいは用言の終止形を用い、一句一章を構成します。
違うところはそれだけ。
「季語をとことん観察して、状態や動作を描写する」という原則はそのままです。
ですので構文と修辞技法の検証はもう省略して良いでしょう。
このパターンの場合、それよりも例句を挙げて、実際どんなふうに応用しているか確認したほうが話がはやいです。
漱石の俳句からいくつかピックアップして、一緒に見てみましょう。
自由な一物仕立
・落ちて来て露になるげな天の川 夏目漱石
最初の例句では、季語に五音の名詞を選び、下五に配置しています。
じつは「季重なり」という特殊な技法が使われていますが、その説明はまた次回。
いまはどうやって季語を描写しているかに注目しましょう。
例句の上五末は接続詞「て」、中七末は形容動詞の連体形「な」です。
いずれも次の文節へ連続する口語体で統一されています。
その結果、構文の全重心が下五に置かれた季語「天の川」へかかり、一句一章の一物仕立になっています。
これは第四のパターン【下五「かな」切れ】とまったくおなじ構造です。
三音の季語+「かな」の部分が、五音の季語に置き換わっているだけです。
つまり新しいパターンと言うよりも、反芻の切れ字に代えて五音の季語を採用したパターンなわけです。
べつの例句も見てみましょう。
・ 木蓮の花ばかりなる空を見る 夏目漱石
今度は用言の終止形で句末を切っています。
もう予測できるかもしれませんが、第五のパターン【下五「けり」切れ】の応用です。
活用語の連用形+「けり」の部分が、活用語の終止形に置き換わっています。
他人の作品を勝手に改作してはいけませんが、仮に下五を「空見けり」としても意味はつうじるので、想像してみるとすぐに分かります。
やはり新しい何かと言うよりも、助動詞「けり」を付けず終止形で言い切っただけのパターンということになります。
要するに第六のパターンは
以上の例から分かるように、第六のパターンは今までの類似型に過ぎません。
いきなり作句しようとすると難しそうですが、構造を分かってしまえばたいして複雑なことをしているわけではないのです。
これまでの各パターンを振りかえりつつ、パズルのように言葉を置き換えてみてください。
パターンを脱却するステップへ……
最後に、もっとレベルの高い応用の一例も挙げておきます。
・ 何となく寒いと我は思ふのみ 夏目漱石
「のみ」は副助詞ですので、なんと副助詞止めです。
季語は「寒し」で三冬。
中七に季語が位置している点も、いままでの例にはありません。
――これで一物仕立になっているのかな?
と考えこんでしまいますが、寒いという形容は人間の主体的な実感です。
そうなると、この句は「寒い実感」しか述べていないことになるわけで、やはり一物仕立に分類せざるを得ません。
こんな俳句も実在します。
カンタンそうに見えてじつは高度なパズルになっているのが把握できたでしょうか?
ここまでくると、完全にパターンの限界を超越しています。
「パズル式作句法」は初心者に便利なツールですが、何でもできるわけではないことを知ってもらいたくて紹介しました。
パターンを使いこなせるようになったら、つぎは自分で言葉のパズルを作りだすステップです。
その一例として参考にしてもらえればと思います。
第六のパターンまとめ
第六のパターンをまとめると、【下五体言止め or 用言終止形】となります。
第四のパターン【下五「かな」切れ】
第五のパターン【下五「けり」切れ】
を応用し、切れ字のかわりに体言止めや用言終止形を用いることで、句末切れの一句一章とします。
「季語をとことん観察して、状態や動作を描写する」という一物仕立の原則は変わりません。
以上となります。
さて、パターンに当てはめて作句する「パズル式作句法」も今回で卒業を迎えます。
ぜんぶで六通りのパターンを、ぜひ繰りかえし利用してください。
「パズル式作句法」が物足りなくなるころには、余裕で「才能アリ!」な一句を詠めるようになります。
そして、そこから先の俳句作りは、パターンでは追いきれません。
自力でパズルを作りだすステップに至るためです。
見た目カンタンな言葉しか使っていない俳句でも、高度なテクニックが用いられているのは確認したとおり。
初心者がはやく上手になりたいと思ったら、達人のテクニックを見よう見まねで方程式化するのが最短経路です。
もちろん他人の作品を盗んだら盗作ですが、構文や技法を取り入れるのは自由ですし、俳句の世界には「本歌取り」といって名句の構想をまんま使わせてもらえる鷹揚な文化さえ存在します。
要するに、「佳句が残るなら犯罪以外は何をしても良い」というスーパー合理主義と言えるでしょうか。
俳句とはそういう文化なのです。
ですので遠慮なく色んな例句に目をとおして、自分なりの手札を増やしてもらえればと思います。
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