第十一回 『俳句の結び ① 句末連用中止法のすべて』
- 2021.07.28
- 文法学部 二階教室
みなさんこんにちは。
『俳句大学 文法学部』の第十一回講義です。
前回まで二回にわたるシリーズで、
「俳句の人称」
について解説してきました。
二階教室も残すところあと二回のみ。
最後は、用言を俳句の結びに使う構文を紹介します。
具体的には――
「連用中止法」
「連体止め」
のふたつを紹介し、講義を締めくくりたいと思います。
なお、「体言止め」の俳句を基礎編とすれば、用言の結びは上級編に当たります。
名詞の持つ写実性にくらべると、動詞や形容詞といった用言はどうしても抽象的になりやすい傾向があるためです。
その意味では、用言を使うこと自体が高度なテクニックだと言えるでしょう。
けれど上手く使いこなせれば、「体言止め」一辺倒の俳句から大きくバリエーションを増やすことができます。
この機会にぜひ句作の引き出しを増やしてみてはいかがでしょうか?
それではさっそく「連用中止法」の解説からスタートしましょう。
連用形でブツ切り!? 句末連用中止法とは?
日本語において文末の用言は、終止形に活用するのが正しい文法です。
ところが、歳時記や句集を読んでいると、たまに次のような俳句と遭遇することがあります。
・ 手毬唄かなしきことをうつくしく 高浜虚子
何となく尻切れトンボな文章に見えませんか……?
文法的に言えば、「うつくしく」という連用形(用言に連なる活用形)に対し、照応する用言が明記されていません。
これは連用中止法と呼ばれる省略法の一種です。
ためしに「歌う」という用言を補って読んでみてください。
・ 手毬唄かなしきことをうつくしく(歌う)
……文意がハッキリしましたね?
このように、活用語を連用形で切って、直後の用言を省略するテクニックのことを連用中止法と呼びます。
本句の場合、省略された動詞が文末に位置しているため、あたかもブツ切りであるかのように見えたわけです。
こうした俳句の結び方が今回のテーマ「句末連用中止法」になります。
じつは名前倒れ? 連用中止法のカンタン活用術
まずは連用中止法についてざっくりと紹介しましょう。
漢字で
と書くと、一見すごく難解に思えるかもしれません。
けれど、じつは私たちが日常的に使っているありふれた文法のひとつにすぎないのです。
たとえば薬を飲むとき――
「使用上の注意をよく読み、用法・用量を守って服用してください」
といった表現を目にしたことはありませんか?
この注意書きの「~をよく読み」の部分は連用形で切れているため、まさに連用中止法に当たります。
いかめしい用語のわりには、たいして高度なテクニックでもありませんよね?
やり方さえ分かれば、俳句の初心者でも容易に応用が効きます。
では、俳句へ応用するとどんなメリットがあるのでしょうか?
連用中止法は用言を丸ごと省略するテクニックですので、無駄な言葉を少しでも減らしたい場面でたいへん重宝します。
文中/文末を問わず適用できますが、とくに句末で用いた場合、「体言止め」と同様に文章をスッキリとしたたたずまいにできるため、大きな恩恵を受けられます。
句末への適用メソッドは推敲の引き出しに入れておいて損はありません。
一方で、用法を誤ると締まりのない「言いながし」に陥ってしまう危険性も孕んでいます。
「髪あらい衣服ととのえ口すすぎ」では、どこを主張したいのかさっぱり伝わらないのとおなじです。
正しい使い方を守ることが重要なポイントと言えます。
では具体的にどのような点に注意すれば良いのでしょうか?
次章でまとめましょう。
言いながしとは違う! 省略としての句末連用中止法
連用中止法は活用語なら何にでも使える万能性を有していますが、目的を見失うと、使いどころを間違えてしまう可能性があります。
その目的とは、用言の省略です。
省略しようとする用言が万人に推定できるものでなければ、本来は終止形で切るべき日本語の誤用とみなされかねません。
とりわけ俳句のような短い文章においては、主張が中途半端になったり、主述の照応性がねじれる症状も併発しがちです。
そこで、正しい用法を知るために、あえて失敗例を反面教師としてみましょう。
実例を見てみてください。
改作をするため、筆者の句を使います。
・ 蹲の一滴ごとに日脚伸ぶ 豊島月舟斎
・ 蹲の一滴ごとに日脚伸び
季語は「日脚伸ぶ」。
クイズにするため、終止形の原句を連用形に活用して並べました。
上下の俳句を見比べてみてください。
この場合の句末連用中止法への変化は、成功/失敗のどちらになるでしょうか?
……もうお分かりかもしれません。
これは不適切な例に当たります。
理由はカンタン。
なぜなら、連用形「日脚伸び」の直後に省略されている用言を特定できないからです。
これは単なる「言いながし」。
したがって、本句は終止形とするのが正しい文法と結論付けられます。
このように、句末連用中止法は「省略する用言が言わずもがなの場合」にかぎって有効なテクニックです。
単に活用語を連用形にすれば良いというわけではなく、文意に応じて正しい使いどころを見極めたときに、はじめて真価を発揮する技術とも言えます。
クイズに正解しなかった向きは、ぜひ冒頭の虚子の例句と、筆者の改作句とを見比べてみてください。
ちゃんと省略機能を活用しているか、単なる「言いながし」で終わっているかが、ハッキリ区別されるでしょう。
句末連用中止法まとめ
今回のまとめです。
句末連用中止法は、俳句の句末に連用中止法を適用するテクニックです。
活用語を連用形として、直後の用言を丸ごと省略することにより、大幅な音数の節約を果たし、韻律を整えやすくする狙いがあります。
一方で、省略法としての用途が明確になっていないと、締まりのない「言いながし」に陥るリスクも併せ持っており、使いどころを正確に選定する必要性があります。
結びに用言を据える場合は、原則どおり終止形とするか、連用中止法とするか、内容を吟味してから判断すべきと言えるでしょう。
以上となります。
次回は『俳句の結び』シリーズの二回目として「句末連体止め」を紹介し、二階教室の全カリキュラムを終了します。
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今までなんとなく使っていました。言い流しの句を沢山作っていました。
虚子の句を改めて読むと 力ずくで「歌う」の方に持っていかれる気がします。「日脚伸び」の方は 結末を曖昧にして読み手の想像力に任せる などと思いましたが句としては弱く腰砕けですね。
コメントありがとうございました。
> 力ずくで「歌う」の方に持っていかれる気がします。
まさしくそんな気がします。
本来は終止形であるべき構文をあえて連用形に活用した虚子の「必然性」がわたしたちに伝わってくるせいかもしれませんね。
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