第九回『超カンタン! パズル式作句法 ④』

第九回『超カンタン! パズル式作句法 ④』
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みなさんこんにちは。
『俳句大学 作り方学部』の第九回講義です。

前回の講義まで、
「二物衝撃」
「一物仕立」
という俳句の修辞技法について説明してきました。

その内容を活かして、ここからは「パズル式作句法」の新パターンを紹介していきます。

作り方学部 一階教室 第四回~第六回』の続編ですが、あちらが二物衝撃の作り方だったのに対し、こちらは一物仕立の作り方になります。

誰でも気軽に作れる一物仕立とは、どんなパターンなのでしょうか?

さっそく第四のパターンから順に解説します。

第四のパターン【下五「かな」切れ】の一物仕立

手始めに先人の名句を解析して、そこからパターンを抽出しましょう。
今回は高浜虚子とならぶ正岡子規の高弟、河東碧梧桐に手を貸してもらいます。

 ・千編を一律に飛ぶ蜻蛉かな  河東碧梧桐

平明句なので、特徴を見やすいかと思います。
いつものようにカナにひらいて、さらに五・七・五へと分解してみましょう。

 

さらに、パターンを図にして抜きだします。

 

こうしてみると非常にシンプルな構造ですね。
特徴が明確なので、先にざっくりと概略をまとめてしまいましょう。

まず、句末に切れ字「かな」があります。
「かな」の他に「俳句の切れ」は見当たりません。

そして切れ字の手前に「蜻蛉」という三音の名詞季語があります。
下五は「蜻蛉」と「かな」をあわせて<季語+切れ字>のセットです。

のこりの上五、中七部分は、ひと繋がりで季語とはべつの内容を持ち出しています。
一句の大部分をしめる十二音が、まるっと情景の描写に当てられ、そのまま季語へと連なっています。

以上の特徴を念頭に、構文と修辞技法をそれぞれ検証していきましょう。

構文は一句一章

第四のパターン最大の特徴は、句末に「かな」があることです。

文法学部 一階教室 第三回』で説明しているように、「かな」は句末にしか使わない特殊な切れ字です。
名詞または用言の連体形に接続して、かならず一句一章になります。

効果は反芻のこもった余韻。
「千篇一律のトンボ、千篇一律のトンボ……」とぐるぐる回るイメージですね。

こうした文法上の定義から、第四のパターンは一句一章の反芻句に当たると言えます。

修辞技法は一物仕立

一方、今回のテーマである修辞技法についてはどうでしょうか?

例句のキーワードは4つ――「千編」、「一律」、「飛ぶ」、そして季語の「蜻蛉」です。

このうち動詞は「飛ぶ」のみですが、直後に「蜻蛉」という名詞が存在するため、活用が連体形だと分かります。
それゆえ、文章全体が季語「蜻蛉」へ集約する構造になっています。

言い換えると、季語の描写以外なにも書かれていないということです。

ここで一物仕立の条件を思い出すと――

「季語をとことん観察して、状態や動作の新しい表現を試みる」

という特徴でした。

例句はまさにこの条件にヒットしています。
このため、第四のパターンは一物仕立に分類できることになります。

【下五「かな」切れ】のレシピ

これで第四のパターンが一句一章の一物仕立であると判明したかと思います。
料理で言えば、隠し味にリンゴを入れたカレーだと判明したようなものですね。

ここまでくれば、あとは実際に調理するだけです。
三分クッキングにも負けない手順を公開しましょう。

 

① 三音の季語を選択(名詞または用言の連体形)
② 季語+切れ字「かな」をセットで下五に配置
③ 上五、中七はべつの内容を持ち出して季語を描写

注意するのは季語の位置と、描写の内容だけです。

パターンの力を正しく借りることができれば、誰でも一物仕立を作れるようになります。

第四のパターンまとめ

以上のことから、【下五「かな」切れ】をまとめると――

『切れ字「かな」を使った一句一章の一物仕立』

であると言うことができます。

組み立て方を順に追うと、

① 三音の季語を選択(名詞または用言の連体形)
② 季語および切れ字「かな」を句末に配置して下五を構成
③ 上五、中七はべつの内容を持ち出して季語を描写

という手順になります。

これで構造と手順は明らかになったでしょうか。
「とりあえず言ってることは分かった」と感じたら、実践あるのみです。
歳時記からいくつか季語をさがして、パズルに当てはめてみましょう。

なお、本文中では触れていませんが、切れ字「かな」を使う俳句にはべつのバリエーションも存在します。
季語の配置が異なるパターンです。

具体的に例句を挙げると、

 ・ひたひたと春の潮打つ鳥居かな  河東碧梧桐

といった具合になります。
季語「春の潮」が中七に位置していますね。

第四のパターンとよく似た一句一章ですが、有季定型俳句においては二物衝撃に分類されますので、いまは忘れてしまって構いません。
まずは基本パターンで作句を繰りかえしてみてください。